今はコロナの影響でどこにも行けなくなってしまいましたが、昔は私もそこそこ機会に恵まれて、医学部に在学しながらも海外へと留学に行くことができました。
当時はヨーロッパに主に訪れていたのですが、当然医学の留学なので、お互いの国の医学の話になるわけです。もちろん研究とかの話もするわけですが、それ以外にもざっくばらんに医学全般に関していろいろな話をしたりします。特にヨーロッパの医学生や医師たちが興味を持っていたのは、日本の国民皆保険制度について。
「日本はなぜあそこまで素晴らしい制度を実現できたのか?」
「あの費用は誰がどのような形で負担されているのか?」
「少子高齢化が進めば、今後どのような変化を遂げていくのか?」
などといった質問が自分に対してひたすら飛んできます。
どれも「そんなんオレだって知りたいよ!!」といういい質問ばかりです(笑)
そしてさらに驚くのは、各国の医学生は自らの医学の制度についてかなり精通しており、その問題点に対する問題意識をしっかりと持っているという点です。だからこそ日本の皆保険制度に対してとても興味を持っていたのかもしれません。人口当たりの病院の少なさ、機材の不足など、自分たちが抱える問題点について熱く語ってくれました。
そんな姿を見て、私もさらにしっかりと日本の医療制度について勉強せねばな…と思ったりするわけです。
海外から羨ましがられる日本の国民皆保険制度
日本の医療制度のもとでは、すべての人に対して最高の医療が提供されるシステムになっています。
どこでも一律で医療の料金は保険点数で決定されており、保険診療の中であれば値段は変わりません。アメリカなどの国では出せるお金に応じて行われる治療が変わったりしますから、このような平等性が確保されている日本の医療制度はかなり特殊であるといえます。
とはいえ、その平等性が確保されているからこそ生じる問題もあります。
その最たる例が日本の医療費でしょう。
もともとはみんなで拠出した保険料で賄われていた医療費ですが、保険料だけではどうしても追い付かなくなってしまい、税金で補填している部分が出てきているのが現状です。このままでは医療費により国の財政がどんどん圧迫されていくとみられています。
日本が世界に誇るこの制度が導入されたのは、1961年です。
ちょうどこのころ、日本は劇的な経済発展を遂げている最中で、今のような高齢化社会ではありませんでした。すなわち、医療費を導入することで寿命が延びることが見込まれ、なおかつそれを投資するだけのお金があった、という環境の中で実現した制度になっています。
それが少子高齢化を過ぎ去り高齢化社会に突入した日本の社会にはどうしてもマッチしない部分が、特にお金の面では出てきているというわけです。
もともとこの日本の国民皆保険制度は、世界のほかの国からもロールモデルとしてとらえられ、導入しようとした試みは多数ありました。
しかしながら、日本のように成長を遂げつつあった国であっても、日本と同じような制度を導入しようとしてもうまくいかない場合がほとんどでした。
これはいったいなぜなのか?そこには日本特有の健康発展に寄与した人々の活躍があったのではないか、と考えられています。
今回紹介する本「地域保健の原点を探る」は、日本の医療がどのように発展を遂げてきたのか、様々な例を紹介しながら解説していきます。
日本の医療を長らく下支えしてきたのは、世界最先端の医療技術ではなく、地域に根差した医療、地域医療であると筆者らは説いていきます。
結核や母子保健、北海道や沖縄での医療開発など、様々な観点から医療を見つめなおす中、そこにあった数々の人間ドラマを学んでいくことでより有機的に日本の医療の特徴を理解できる一冊になっています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、世界一強靭とされていた日本の医療でさえも崩壊したといえる事例が多々ありました。
特に旭川での病院の様子はマスメディアでもセンセーショナルに報じられ、印象に残っている方も多いのではないでしょうか。
今、日本の医療制度は、ある一つの岐路に立たされていると思います。
現状のままでは、この社会を支えることはできないかもしれません。
でも、いったいどうやって制度を変えていけばいいのか。
そのヒントが、過去の先人たちの知恵の中にあるのではないかと思うのです。
来年は2021年。日本が国民皆保険制度を導入してから60周年を迎えます。
そんな中、日本がどのようにして医療の発展を遂げてきたのか、今一度ゆっくりと学んでみませんか?
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なお、もっと深く学びたい方には、1つの論文をご紹介します。日本語です。
こちらは2011年にLancetという有名な医学雑誌が、日本の国民皆保険制度50周年を記念した特集を組んだ際に掲載された論文です。
日本の医療制度の強靭さの要因について考察が加えられています。
特に医学生の方は必読です!
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