東京オリンピック、開催できるの?海外の医学雑誌の論壇を紹介

医学部・医学関連
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さて、いつの間にか迫ってきたオリンピック。
いち庶民としては緊急事態宣言が発令されている中全く実感はわきませんが、気づけばあと2か月後には世界中のトップアスリートが日本に集結して、スポーツの祭典が繰り広げられているのだそうです…!!

正直、この状況に対してどのような気持ちを抱けばよいのかわかりませんが、そんな我々の心配をよそに、海外ではオリンピックの開催について熱い議論が交わされています。

オリンピックとなると、スポーツや政治、経済などといった幅広い側面でのかかわりがあるかとは思いますが、このご時世からして一番気になるのはやはり、医療面からどのように耐えきれるか、ということではないでしょうか。

というわけで、今回は海外の医学雑誌がオリンピックについてどのような見解を示しているのか、という点を日本語で解説したいと思います!

取り上げるのは、British Medical Journal (BMJ、英国医学会雑誌)とNew England Journal of Medicine (NEJM、ニューイングランド医学雑誌)に掲載された記事になります。

これらの雑誌は、JAMAやLancetとともに4大医学雑誌とも呼ばれており、医学業界において非常に影響力のある雑誌とされています。これらの編集者がどのような記事をこれらの雑誌に掲載するかによって医学界の潮流が形成されているといっても過言ではありません。

そんな権威ある雑誌がどのように東京オリンピックについて言及しているのでしょうか?見ていきましょう!

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BMJのEditorial

さて、まずはBMJのほうから紹介しましょう。BMJのEditorialの中に、東京オリンピックについての記事が掲載されていました。

Shimizu K, Sridhar D, Taniguchi K, Shibuya K. Reconsider this summer’s Olympic and Paralympic games. BMJ. 2021 Apr 14;373:n962. doi: 10.1136/bmj.n962. PMID: 33853866.

Editorialとは、いわゆる社説のようなもので、編集者がその分野の専門家を招待して寄稿をしてもらうコーナーです。そこで収載されたタイトルが「東京オリンピックを中止せよ」とも訳せるわけですから、かなりガチモードで批判に入っています。

実際、BMJもこの話題についてはかなり熱いようで、プレスリリースまで打っている形です。

ただ、これを執筆したのはBMJの編集者ではありません。この論文は元キングスカレッジロンドン教授の渋谷健司氏らにより執筆されています。

渋谷氏に関してはどう紹介しても炎上しかねないので(笑)ご興味のある方はご自身で検索してみてください。要は何を言いたいかというと、イギリス人が執筆した記事ではないよ、ということです。

ただ、この記事ではかなり辛辣に日本がCOVID-19を抑えることができていない状況について紹介し、このままでオリンピックを開催するのは不毛だ、と終始一貫主張しています。

2回前のオリンピックを開催し、成功させたロンドン・イギリスの矜持を示すかのような強い論調を通じて、日本の現状ではオリンピックは開催すべきではない、と強く訴えかけている。そんな印象を受けるのがBMJの記事になります。

NEJMのPerspective

さて、次にご紹介するのは、NEJMのPerspectiveです。ニュー「イングランド」と言っていますが、実はアメリカの医学雑誌だったりします。

Sparrow AK, Brosseau LM, Harrison RJ, Osterholm MT. Protecting Olympic Participants from Covid-19 – The Urgent Need for a Risk-Management Approach. N Engl J Med. 2021 May 25. doi: 10.1056/NEJMp2108567. Epub ahead of print. PMID: 34033274.

Perspectiveとは視座、視点と訳されるような単語で、いわゆる「論壇」みたいなコーナーのことです。
このコーナーには誰しもが投稿することができますが、このような大手雑誌になるとその内容もかなり選りすぐりのものとなり、選ぶ内容はやはり雑誌の視座を示すものであるといえます。

肝心な内容についてですが、やはりBMJ同様、オリンピックの開催には否定的な意見が呈されています。

We believe the IOC’s determination to proceed with the Olympic Games is not informed by the best scientific evidence.
私たちは、IOCがオリンピックを開催する段取りを続けていくという判断は最良の科学的根拠に立脚する意志ではないように感じられる。

しかし、その一方で、開催を目指すのであれば、厳重な感染対策が選手間でも必要である、と主張しながら具体的な提案をしています。

例えば、競技に応じた感染リスクの階級わけの提案。
屋外でも各人が離れて行う種目は低リスク、接触が伴う場合は中リスク、室内で行うものは高リスク。室内で行う種目で、格闘技など各人が激しく接触するものは最高リスクとして管理すべき、という主張。
また、発熱をしない無症候感染者も多いので、1日1回、ないし2回のPCR検査を厳重に行うべき、という主張。

どれも具体的で建設的な主張であると思います。

そして、印象的なのはこの論壇の締めくくりです。

With less than 2 months until the Olympic torch is lit, canceling the Games may be the safest option. But the Olympic Games are one of the few events that could connect us at a time of global disconnect. The Olympic spirit is unparalleled in its power to inspire and mobilize. We rally around the torch because we recognize the value of the things that connect us over the value of the things that separate us. For us to connect safely, we believe urgent action is needed for these Olympic Games to proceed.

オリンピックの聖火が点火されるまで2ヶ月を切った今、オリンピックを中止することは最も安全な選択肢でしょう。しかし、オリンピックは、世界が断絶している今、私たちがつながることができる数少ないイベントのひとつです。オリンピックの精神は、人々を鼓舞し、動員する力においてかけがえのないものです。私たちが聖火の周りに集まるのは、私たちを分断するものの価値よりも、私たちをつなぐものの価値を認識しているからです。私たちが安全につながるためには、オリンピックの開催に向けて緊急の行動が必要なのです。

分断を超えていく。そのために何ができるのかを考える。
そんな意思が伝わってくるNEJMの論壇でした。

日本は、世界が求める安全対策を構築できるか

この2つの雑誌は、4大医学雑誌の中でも海外の事例を取り上げることは意外と少なく、自国内のみのニュースやネタを記事にしていることが多いのです。そのような意味では、この話題がどれほど注目を集めているのかということがひしひしと伝わってきます。

結論としては、どちらの雑誌に関しても、「今のままでは開催は極めて難しい」というスタンスでした。まぁ、想定通りといえば想定通りですね。

ただ、日本もIOCも、今のところはオリンピックは開催するつもりのようです。もしも開催するのであれば、しっかりとそれまでに感染対策の追い上げを実現して、世界にドヤ顔ができるくらいの状態にしてほしいものだな、と思う次第です。せっかくワクチン接種速度も追い上げてきたことですし。

開催するにせよ取りやめるにせよ、歴史に残るオリンピックになることは必須。ならば、せめていい歴史にしてほしいな、と一日本人としては思います。

医学部って、苦しいけど楽しい!

以上、マイルで旅する医学生「ちっぷ」(@aiueo_tips)がお送りしました!

まだまだ未熟だけど頑張るよ!

最後までお読みいただきありがとうございました!


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